(2020/05/24 図に合わせて一部加筆修正しました)
今回から数回にわたってボーダー理論について解説してみたいと思います。
まずは基本のキ、期待値の計算です。
ボーダー理論で立ち回るとは期待値を基に立ち回るということです。
期待値がわからなければ台の選択、あるいは打つ・打たないの選択ができません。
何もかも自力で計算できないとダメ、ということはありませんができた方が良いです。
止め打ち効果で出玉を増やせる台を打っているなら、それを反映できればより正しい期待値を得られます。
期待値なんてただの平均値だというのも尤もですが、丸一日打った台の出玉や回転率を期待値計算に反映できたら大変効果的です。
今回は、導入から何年も経つのに未だに人気の「CRF戦姫絶唱シンフォギア」を例に計算してみましょう。 そろそろシンフォギア2が登場しますが、シンフォギア2の期待値は第27回で。
スペックがないと計算しようがありません。
正しいスペックを得ましょう。
大当たり確率 | 1/199.8 | |
アタッカー賞球 | 7カウント14個(4R/ 8R/ 12R/ 15R) | |
小当り確率 | 1/7.4 | |
時短 | 最終決戦 | 1回(+保留4) |
シンフォギアチャンス(SC) | 7回(+保留4) | |
振り分け(ヘソ) | 4R 最終決戦 | 99% |
15R SC直行 | 1% | |
振り分け(SC) | 4R | 50% |
8R | 7% | |
12R | 3% | |
15R | 40% |
期待値と当たり前のように書いていますが、上のようなスペックから一体何を計算すれば良いでしょうか。
一般的には「初当たり1回の平均出玉」が判れば良いかと思います。
例えば1/200の確率の初当たり1回の平均獲得出玉が3,000玉だとしましょう。
この台を2,000回転させたら平均10回の初当たりがあり、それぞれ平均で3,000玉出ます。
この場合、出玉の合計は平均30,000玉です。
一方、千円で20回転回せるとすれば、2,000回転させるのに10万円必要です。
投資10万円と聞くと勝てる気がしませんが、出玉で打つ分も含めてです。
2,000回転で25,000玉使うということです。
この例では30,000玉獲得できるので5,000玉増えることになります。
これを「2,000回転時の期待差玉5,000玉」と言ったりします。
等価(¥100/25玉)なら¥20,000勝ちです。
等価でない場合は2,000回転回すのに使った玉の、持ち玉と現金の比率(持ち玉比率)を決めれば額を計算できます。
このように期待差玉がわかれば、違う機種、違う店の複数の台を比較することも可能になります。
詳しくは次回以降に書きますが「機種の期待値」ではなく「目の前にあるこの台」の期待値を把握することが重要です。
では「初当たり1回の平均出玉」を計算してみましょう。
「初当たり1回の平均出玉」ということは「初当たりしたという前提で」ということです。
そのため初当たり確率は使いません。
シンフォギアの場合、初当たり時にシンフォギアチャンス(以下SC)直行の場合と最終決戦となる場合に分かれます。
このような場合分けは、面倒に思えても以下のような図にしてみることをお勧めします。
状態遷移図と呼んだりします。
この図では「SC」が2箇所にありますが、上の「SC」は初当たりで15R引いた場合ですので突入時の当たりは含まれていません。
それに合わせて下の「SC」は「最終決戦突破時の当たり(?R)」を経て「SC」としています。
こうすることでどちらの「SC」も「突入時の当たりを含まない」ことで統一されています。
この図から、初回15Rだった場合、初回4Rで最終決戦突破した場合、初回4Rで最終決戦突破できなかった場合、の3パターンを計算すれば良いとわかります。
期待値計算で頻出する計算を理解しておきましょう。
これがわかれば後はスペックに合わせて微調整すれば計算できるようになります。
【図1】で「SC」となっている「シンフォギアチャンス」は、突入したら一定の継続率で継続する、いわゆるSTです。
このような何回続くかわからない部分の期待値を計算する方法を説明します。
「シンフォギアチャンス」の継続率を「\(r\)」と書くことにします。
「\(r\)」は継続「率」ですから \(0<r<1\) とします。
このとき継続終了する確率は「\(1-r\)」となります。
そして、継続する回数を「\(x\)」、\(x\)回で終了する確率を\(p(x)\)と書きます。
すると以下のような表ができます。
表の真ん中の行には継続/終了を◯×で書いてみました。
\(x\) | 0 | 1 | 2 | 3 | ... | n | ... |
× | ◯× | ◯◯× | ◯◯◯× | ... | ◯◯...◯× | ... | |
\(p(x)\) | \(1-r\) | \(r(1-r)\) | \(r^2(1-r)\) | \(r^3(1-r)\) | ... | \(r^n(1-r)\) | ... |
せっかく最終決戦突破したのにSCスルーするケースは一番左の\(x=0\)の部分です。
突入後3連(初当たりと最終決戦突破時の当たりを含めると5連)するケースは\(x=3\)の部分です。
それぞれ継続する回数だけ継続率「\(r\)」を乗じて、最後に終了する確率「\(1-r\)」を乗じる形になっています。
継続回数「\(x\)」の期待値「\(Ex\)」がわかれば良いのですが、それは次のように計算します。
\[ Ex=0\times (1-r)+1\times r(1-r)+2\times r^2(1-r)+3\times r^3(1-r)+\cdots+n\times r^n(1-r)\\ \]
上段と下段をかけて足しているだけです。
継続する回数に、それが起こる確率をかけて、合計すればそれが期待値です。
式を整理してみましょう。
\[ \begin{align} Ex&=0\times (1-r)+1\times r(1-r)+2\times r^2(1-r)+3\times r^3(1-r)+\cdots+n\times r^n(1-r)\\ &=r(1-r)+2r^2(1-r)+3r^3(1-r)+\cdots+nr^n(1-r)\\ &=(r+2r^2+3r^3+\cdots+nr^n)(1-r)\\ &=(r+2r^2+3r^3+\cdots+nr^n)-(r+2r^2+3r^3+\cdots+nr^n)r\\ &=(r+2r^2+3r^3+\cdots+nr^n)-(r^2+2r^3+3r^4+\cdots+nr^{n+1})\\ &=r+r^2+r^3+\cdots+r^n-nr^{n+1}\\ \end{align} \]
ここで最後の項 \(-nr^{n+1}\) を除いた \(r+r^2+r^3+\cdots+r^n\) 部分に \((1-r)\) をかけると \[ \begin{align} &(1-r)(r+r^2+r^3+\cdots+r^n)\\ =&(r+r^2+r^3+\cdots+r^n)-r(r+r^2+r^3+\cdots+r^n)\\ =&(r+r^2+r^3+\cdots+r^n)-(r^2+r^3+\cdots+r^{n+1})\\ =&r-r^{n+1}\\ =&r(1-r^n)\\ \end{align} \]
ですから \[ \begin{align} (1-r)(r+r^2+r^3+\cdots+r^n)&=r(1-r^n)\\ \therefore r+r^2+r^3+\cdots+r^n&=\frac{r(1-r^n)}{(1-r)}\\ \end{align} \]
これを期待値 \(Ex\) の式に戻して \[ Ex=\frac{r(1-r^n)}{1-r}-nr^{n+1}\\ \]
継続回数はリミッターがなければ制限なしですから、ここで \(n\) を無限大にします。
そのとき \(r^n\) と \(nr^{n+1}\) はゼロになって消えてくれます。
この理由を知りたい人はこちらをどうぞ。
\[
\begin{align}
\lim_{n \to \infty} Ex&=\lim_{n \to \infty} \biggl(\frac{r(1-r^n)}{1-r}-nr^{n+1}\biggr)\\
&=\frac{r}{1-r}\\
\end{align}
\]
これがシンフォギアチャンス突入時の以降の継続回数の期待値です。
この結果に1を足すと
\[
\begin{align}
\frac{r}{1-r}+1=&\frac{r}{1-r}+\frac{1-r}{1-r}\\
=&\frac{r+(1-r)}{1-r}\\
=&\frac{1}{1-r}\\
\end{align}
\]
となって、ST突入時の当たりを含めた時の継続回数の期待値となります。
この形は「無限等比級数の公式」などでご存知かもしれません。
並べて書いておきます。
\[ \begin{align} 1+r+r^2+r^3+\cdots=&\frac{1}{1-r}\\ \\ r+r^2+r^3+\cdots=&\frac{r}{1-r}\\ \end{align} \]
以降の計算ではこのどちらを使うのか(突入時を含むのか含まないのか)を注意します。
次にシンフォギアの継続率\(r\)を具体的に計算しておきましょう。
STの当選確率は7.4分の1ですからST1回で外れる確率は\(1-\dfrac{1}{7.4}\)です。
これが11回続く確率は\((1-\dfrac{1}{7.4})^{11}\)です。
11回連続で外れる「以外」は継続するのですから、継続率は
\[
r=1-\biggr(1-\frac{1}{7.4}\biggr)^{11}\fallingdotseq 0.7975\\
\]
よって突入時を含めた継続回数は
\[
\frac{1}{1-r}\fallingdotseq\frac{1}{1-0.7975}\fallingdotseq 4.938回\\
\]
突入時を含めない継続回数は
\[
\frac{r}{1-r}\fallingdotseq\frac{0.7975}{1-0.7975}\fallingdotseq 3.938回\\
\]
となります。
ちなみに最終決戦突破率は
\[
1-\biggr(1-\frac{1}{7.4}\biggr)^{5}\fallingdotseq 0.516\\
\]
です。
まだ準備が続きます(笑)
1つの当たりで得られる玉数が一定だった時代は「何回継続するかの期待値」が判明すれば、それに玉数をかければ良かったのですが、シンフォギアチャンス中は当たりが4種類ありますね。
継続回数の期待値が 4.938回と判明しても、まだもう少し計算が必要です。
ラウンド数で玉数が決まっているので、ラウンド数の期待値を求めればOKです。
シンフォギアチャンス中の当たりの振り分けは【表1】にあります。
ラウンド数とそれが発生する確率をかけて全て足せばシンフォギアチャンス中の1回の当たりのラウンド数の期待値 \(ERsc\) が出ます。
\[
\begin{align}
ERsc&=4\times 0.5+8\times 0.07+12\times 0.03+15\times 0.4\\
&\fallingdotseq 8.92\\
\end{align}
\]
ついでに1ラウンドの出玉 \(NR\) も計算しておきましょう。
アタッカーに1つ玉が入ると14個払い出されるので、純増は13個です。
1ラウンドでちょうど7個入賞してこぼれ玉がなければ、
\[
NR=7\times (14-1)=91個\\
\]
実際はこの91個に対して、オーバー入賞がどのくらい見込めるか、こぼれ玉がどのくらい発生するか、などを考慮して調整します。
いよいよ初当たり1回につき平均でどのくらい出玉が得られるか計算します。
もう一度上と同じ図を載せておきます。
初回15Rだった場合、初回4Rで最終決戦突破した場合、初回4Rで最終決戦突破できなかった場合、の3パターンを計算すれば良かったのでした。
まずは初回15Rを引いた場合。
このときの平均獲得ラウンド数を\(A\)と書くことにしましょう。
シンフォギアチャンス突入時の15Rは別途足すことにして、継続回数は「突入時を含まない回数」を使います。
\[
\begin{align}
A&=15+(突入時を含めない継続回数) \times ERsc \\
&\fallingdotseq15+3.938 \times 8.92\\
&\fallingdotseq50.12
\end{align}
\]
次は初当たり4Rで最終決戦へ進んだ場合の平均獲得ラウンド数\(B\)を計算します。
3パターンの残り2つを一気に計算します。
最終決戦突破時の獲得ラウンドは、シンフォギアチャンス中の振り分けと同じなので、継続回数は図の「?R」分を含めた「突入時を含む回数」を使ってみましょう。
\[ \begin{align} B&=4\\ &+(最終決戦突破率)\times(突入時を含む継続回数) \times ERsc \\ &+(1-最終決戦突破率)\times 0 \\ &\fallingdotseq4+0.516\times4.938\times 8.92\\ &\fallingdotseq26.73 \end{align} \]
\(A\)が起こる確率は1%で\(B\)が99%ですから、シンフォギアの初当たり時期待ラウンド数は
\[
A\times0.01+B \times 0.99\fallingdotseq26.97
\]
となります。
これに1ラウンドの出玉 \(NR\) をかければ
\[
26.97\times91\fallingdotseq2,454玉
\]
で、これが初当たり時平均出玉です。
これから「ボーダー」や「千円で23回転の時の期待値」などを計算するわけですがそれは次の機会に。