ボーダー理論について引き続き解説する予定ですが、筆が遅いにもほどがありますね。申し訳ありません。
気になる機種が出たので、その機種のある計算について取り急ぎ書いてみます。
ここではストックタイム中の「V-LOOPを獲得するための抽選」を「普図抽選」と呼ぶことにします。
大当たり確率 | 1/319.7 | |
アタッカー賞球 | 10カウント15個(3R/ 10R) | |
普図抽選確率 | 1/350 | |
RUSH突入率 | 64%(実射値) | |
振り分け(特図1) ※ヘソ及び右上黄色羽 | 3R ストックタイム100回 | 75% |
3R ストックタイム150回 | 25% | |
振り分け(特図2) ※右下赤色羽 | 3R RUSH終了 | 28% |
3R RUSH継続 | 22% | |
10R RUSH継続 | 72% |
黄色い部分は公式サイトには見当たりません。
本講座はそこを確認するためのものです。
1/350で64%だとすると、100回のストックタイムで何回普図抽選を受ける想定になっているかを探ります。
右上黄色羽の少し上の釘をマイナス調整されると普図抽選回数が減るのが気になるからです。
また、今回は遊タイムによる効果は考慮していません。
ストックタイムは、右上黄色羽入賞による1/319.7の抽選を100回または150回終えるまで続きます。
この間に盤面右下のスルー(GO!)を玉が通過するたびに普図(1/350)抽選を行っています。
ストックタイム中に1/319.7の当りを引くともう一度100回または150回から仕切り直します。
そのため初当たり1回の平均的なストックタイムの回数はやや複雑な計算が必要です。
初当たり1回の平均的なストックタイムの回数を計算すれば、その回数でRUSH突入64%に必要な普図抽選回数がわかります。
それを基にストックタイム100回の場合の普図抽選回数を出したいわけです。
まず、振り分けからわかる平均ストックタイム回数Nを計算しておきます。 \[ N = 100\times0.75 + 150\times0.25 = 112.5回 \] 次に1/319.7の引戻し率Rです。 \[ R = 1-(1-\dfrac{1}{319.7})^{112.5} = 0.2970 \]
さて、引戻しが発生すると追加で100回または150回もらえますが、今消化していたストックタイムの残りは無くなります。
ですので引き戻すとしたらその時の回転数は平均いくつか、という計算が必要になります。
余談になりますが、遊タイムでストックタイム150回に突入したのに50回転以内に319.7を引くとそこから100回になってしまうということが起こりえます。これは遊タイムでない場合も同様ですが150回であったかどうかは100回到達しないと判明しないので気づけません。
1/319.7を\(r\)として\(x\)回転目で当たる確率\(p(x)\)を表にすると次のようになります。
表の真ん中の行には外れ/当たりを×◯で書いてみました。
\(x\) | 1 | 2 | 3 | ... | n |
◯ | ×◯ | ××◯ | ... | ××...×◯ | |
\(p(x)\) | \(r\) | \((1-r)\times r\) | \((1-r)^2\times r\) | ... | \((1-r)^{n-1}\times r\) |
そして、今回は決まった回数までに当たるとしたらその平均回転数はいくつか、ということなので、最下段の\(p(x)\)の合計を1にしなければなりません。
\(p(x)\)の合計は、
\[
\begin{align}
&r+(1-r)\times r+(1-r)^2\times r+\cdots+(1-r)^{n-1}\times r\\
=&r(1+(1-r)+(1-r)^2+\cdots+(1-r)^{n-1})\\
=&r\times \frac{1-(1-r)^{n}}{1-(1-r)}\\
=&r\times \frac{1-(1-r)^{n}}{r}\\
=&1-(1-r)^{n}\\
\end{align}
\]
これは先ほど計算した引戻し率 \(R\) そのもので、nを無限大とすれば1になります。
今回はnまでの合計である \(1-(1-r)^n (=R)\) で各確率を割ることでnまでの合計が1になるように(引戻したという前提に)します。
しかし、各確率を割ってから計算しても、計算結果を割っても同じなので、最後に割ることにします。
さて、\(x\)の平均値\(Ex\)を計算したいので、表の上段と下段を掛けて足します。
\(1-r\) を \(q\) 、\(r\) を \(1-q\)と書くことにします。
\[
\begin{align}
Ex=&1\times r+2\times q\times r+3\times q^2\times r+\cdots+n\times q^{n-1}\times r\\
=&r(1+2q+3q^2+\cdots+nq^{n-1})\\
=&(1-q)(1+2q+3q^2+\cdots+nq^{n-1})\\
=&(1+2q+3q^2+\cdots+nq^{n-1})-q(1+2q+3q^2+\cdots+nq^{n-1})\\
=&(1+2q+3q^2+\cdots+nq^{n-1})-(q+2q^2+3q^3+\cdots+nq^n)\\
=&1+q+q^2+\cdots+q^{n-1}-nq^n\\
=&\frac{1-q^n}{1-q}-nq^n\\
\end{align}
\]
この式で \(n\) を無限大(当たるまで続けるいわゆる確変などの場合)とすれば \(q^n\) と \(nq^n\) はゼロになります。
\(1-q\) は \(r\) であり、すなわち大当たり確率なので \(\frac{1}{1-q}\) はその確率分母です。
よって、確変などのように当たるまで続ける場合の平均回数は確率分母ということがわかります。
なぜ \(q^n\) と \(nq^n\) がゼロになるか興味がある方はこちらを参照ください。
さて、 \(R = 1-(1-r)^n\) すなわち \(1-q^n\) で割るのを忘れずに、 \[ \begin{align} Ex=&(\frac{1-q^n}{1-q}-nq^n)\times \frac{1}{1-q^n}\\ =&\frac{1}{1-q} - \frac{nq^n}{1-q^n}\\ \end{align} \] \(q\) を \(1-r\) に戻して \[ Ex=\frac{1}{r} - \frac{n(1-r)^n}{1-(1-r)^n}\\ \]
これが引戻した場合の平均回転数です。
この後引戻し率\(R=1-(1-r)^n\) を使って計算を進めるので
\(1-(1-r)^n\) を\(R\) 、\((1-r)^n\) を\(1-R\) と書き直して
\[
Ex=\frac{1}{r} - \frac{n(1-R)}{R}\\
\]
引戻し率\(R\) の平均引戻し回数は
\[
\frac{R}{1-R}\\
\]
ですから、ストックタイムの平均回数\(Est\)は
\[
\begin{align}
Est = &n + Ex\times \frac{R}{1-R}\\
= &n + (\frac{1}{r} - \frac{n(1-R)}{R})\times \frac{R}{1-R}\\
= &n + \frac{R}{r(1-R)} - n\\
= &\frac{R}{r(1-R)} \\
\end{align}
\]
こんなにシンプルな形になるならもっと簡潔な導き方がありそうです。
もしお気付きのことがありましたら是非コメントお寄せください。
具体的に数字を入れてみましょう。
\(r\) は1/319.7、\(R\) は序盤に計算したとおり0.297です。
\[
\begin{align}
Est&=319.7\times \frac{0.297}{1-0.297}\\
&\fallingdotseq135.09回
\end{align}
\]
これが初当たり1回の獲得ストックタイムの平均回数です。
ちなみに、 \[ \begin{align} Ex&=319.7- \frac{112.5\times (1-0.297)}{0.297}\\ &\fallingdotseq53.45 \end{align} \] で、引き戻した時の回転数は平均53.45回です。
初当たり1回の獲得ストックタイムの平均回数が 135.09回 とわかりました。
一方、実射値でRUSH突入64%とは
\[
\begin{align}
1-(1- \frac{1}{350})^k = 0.64\\
\end{align}
\]
を満たすようなk回の普図抽選があったということです。
実際は初当たり1回で350回スルー通過するように設計して理論値63.3%を64%と発表しているのだろうと想像しています。
式を変形して \[ \begin{align} (1- \frac{1}{350})^k =& 0.36\\ (\frac{349}{350})^k =& 0.36\\ \end{align} \] \[ \begin{align} \therefore k =& \log_{\frac{349}{350}} 0.36\\ =& 357.07回 \end{align} \] 1/350を357.07回試行すると少なくとも1回当たる確率が64%となります。
(注)シミュレータで検証したところ、平均357.07回の普図抽選では61-62%程度にしかならないことが判明しました。なぜ64%にならないか詳細は第30回を参照ください。以下の記述は357.07回で突入率64%という前提で書かれています。
あと少しです。
初当たり1回の獲得ストックタイムの平均回数が 135.09回ですから100回、150回の場合は次のようになります。
ストックタイム回数 | 普図抽選回数 | 引戻し無い時のRUSH突入率 |
---|---|---|
100回 | 357.07 / 135.09 * 100 = 264.3 | 53.1% |
150回 | 357.07 / 135.09 * 150 = 396.5 | 67.8% |
これがRUSH突入率64%の場合に必要な抽選回数です。
RUSH突入率64%で期待値計算するならこの回数の普図抽選が必要で、回数が少ないならRUSH突入率64%で計算しちゃダメよ、ということです。
ストックタイム100回の 普図抽選回数 | 引戻し考慮したRUSH突入率 | 引戻し無い時のRUSH突入率 |
---|---|---|
190回 | 52.0% | 41.9% |
200回 | 53.8% | 43.6% |
210回 | 55.6% | 45.2% |
220回 | 57.3% | 46.7% |
230回 | 58.9% | 48.2% |
240回 | 60.5% | 49.7% |
250回 | 62.0% | 51.1% |
260回 | 63.4% | 52.5% |
270回 | 64.8% | 53.8% |
280回 | 66.1% | 55.1% |
290回 | 67.4% | 56.4% |